・本来ならここに、17日に終わった全但吹奏楽祭のことを書かなきゃなりません。しかし、先週とても悲しい出来事が起こり、書けなくなりました。パーカスの古坂ゆりちゃんが亡くなりました。24歳という、とてもとても若い年齢で。それを知らされたときには、まったく信じられなくて、何度も何度も聞きかえしました。ウソでしょう?何かの間違いでしょう?
・フリュシャカが豊吹に初めてやって来たのは、彼女が高校2年の6月だった。それから卒業するまで在団し、大学進学・就職後はめっちゃ頼れる助っ人として豊吹を盛り上げた。文字通り「盛り上げ」てくれた。彼女の周りには絶えず笑いがあった。パーカス成ちゃんとめぐと3人でいつもギャハギャハ大笑い。でも、音楽にはひたむきで一所懸命で合奏中は超マジメ。鍵盤楽器を得意としたが、私はフリュシャカのバスドラムが忘れられない。音色が多彩で表情豊かで。メロディアスなベードラなんて、あの子が初めてだった。
・「忘れられん」と言えば、平成14年の空港フェスだ。あれはもう、不滅の伝説となっている。当初ドラムスを叩くことになってた人が、当日未明になってドタキャンした。本番は9時間後だ。他に出れるパーカスはめぐ一人だけだったので、余剰人員などいない。出演取り止めなど絶対にできない。ドラムスなしで演奏か?どうする、豊吹!! この掛け値なしの絶体絶命のピンチを救ってくれたのが、誰あろうフリュシャカゆり、その人なのであった。当時、大学生だったフリュシャカはたまたま帰省していたのだろうか。運良く連絡がついて、その日叩いてくれることになった。当日の朝早くに楽器置き場で簡単に譜読み。管楽器との合わせもできず、そのまま現地へ直行。そのときのリズムセクション、ベース川﨑・チューバ谷下・バリサクまえだは、初見のフリュシャカをサポートしよう、もしドラムスの音がなくなっても我々でカバーしよう、と新たに気合を入れなおした。そして本番。見よ!フリュシャカは、初見とは絶対に思えない完璧な演奏を成し遂げた。それは見事な腕前であった。低音隊の心配は無用のものとなり、それどころか彼女の軽快なリズムのおかげでいつもよりノリのよい演奏ができたのだ。無事に、なんてもんじゃない、バンド全体を引っ張ってもらって演奏の質を上げてもらって本番が終了した。なぁんだ、フリュシャカにとって豊吹の曲なんて初見でさっとできるんだ。心配することもなかったなぁ。なんてお気楽に思ってたら、楽器を片付けながら、彼女ボロボロ泣き出した。えっ!! あんなに堂々と叩いてたのに…。そうは見えても、やはり彼女はものすごいプレッシャーを感じていたのだった。その後は、もらい泣きしたり抱きしめたりありがとありがと言ったりカルガモ米アイス食べたり。ドラマーとしてのたくましさと感じやすい繊細な心をあわせもつ乙女に、豊吹の危機は救われたのだよ。
・おバカなエピソードもいっぱいあったなぁ。いつの行事だったか覚えてないけどー、と話してくれたのはパーカスめぐ。豊小の駐車場にみんなが集まったときに、ユーフォ岩下さんが灰色のパーカーを着て、フードをすっぽりかぶって来られた。それ見て、めぐは「いやーん、岩下さん。“ねずみの鬼太郎”みたい~」と言っちまった。それを聞いてフリュシャカがすかさずツッコミを入れた。そりゃそうだ、入れるだろう。しかし、彼女の口から出た「ツッコミ」はこうだった。「何言っとるん、めぐさんっ。“ねずみのおやじ”だろ!!」。OH,ボケボケコンビ!! 「それを言うなら“ねずみ男”だーっ(怒)」、ペット坂ちゃんがたまらず正しくツッコミました。
・『サザエさんア・ラ・カルト』を定演でやったとき、彼女、ドラムスを担当。「私、ここがむっちゃ好き」と、とあるテーマをものすご気に入ってた。♪ダカダカダンダン・ダダンダダンダン・ダカダカダダンダダン♪って、主に波平さんとかマスオさんとかオジキャラが登場するときに流れる低音なテーマ。…音域もリズムもローギアなメロディだよ。でも、ここ叩くときはめっさハイテンションだったらしい。あ~、そういえばお気に入りの曲はもう身振り手振りがぜんぜん違ったなぁ。シロフォン叩いた後にガッツポーズ入れてたのがビデオにばっちり映ってたのは、あれは何の曲だったっけかねぇ。
・高校3年のときのコンクール、豊吹のステージで一緒に『大仏と鹿』を演奏した。フリューシャカはこの行事の後、受験が終わるまで豊吹を休団。これが高校生活最後の演奏、と思ってステージに臨んでいた。本番終了後、控え室にしてた和室で、みんなで車座になって一言ずつ感想を言った。そこで彼女は、「今日で最後です。ありがとうございました!!」って言って涙を流した。ああ、叩くことがホントに好きなんだな、吹奏楽と離れるのが辛いって本気で思ってるんだ、って感じだった。とてもすがすがしかった。
・ここまでの文章にあるように、戦務帳ネームは「フリューシャカ」だった。ロシヤっぽい名前で、かわいいっしょ。この名前をどう思ってたのか。彼女からはっきりした言葉で聞いたことはないけれど、以前彼女からもらったメールに「ども!!フリューシャカです!!」って書かれてた。どうやら気に入ってくれてたらしい。会えば必ず「ああ~中井さぁーん」と満面の笑みで駆け寄ってきてくれた。「フリュ~シャカぁぁ」と、こちらも自然と笑って答えた。「相変わらずオデコぴかぴかやなぁ」「もぉぉぅ言わないでくださいよっ」。いつも最初につやっつやの額をからかって会話が始まる。もうあのやりとりができないなんて。
・去年の11月、久々に豊吹にひょっこり遊びにやってきたフリュシャカ。1年後輩のクラなおちゃんとの再会にはしゃいでた。その数日後の飲み会に誘うと喜んでて、当日参加してくれただけでなく、2次会のトマオニの閉店時間まで一緒にいた。来年の定演は一緒にステージに立とうで。わぁそうしたいけどいいんですかぁ、私、ブランク長いですよぉ。そんなんあんただったらすぐ取り戻せるわ、出よ出よ。あのとき他愛もなくしゃべったね。楽しかったね嬉しかったよ。でもまさかこんなに早い別れが来るとは思いもよらなかった。フリュシャカのお父さんから、めぐがスティックを頂きました。「ゆりと一緒に定演に出たいから」、めぐがそう言ってます。今年の定演は一緒だよ。
・まだ信じられなくて、連絡したらまた豊吹を助けに帰ってきてくれる気がする。本当にいい子だった。誰に聞いても、いい子だったって言葉が返ってくる。この世の中で生きるには、あの子はあまりにピュアすぎたのかなぁ。それで神様は早くに取り上げてしまわれたのかもしれない。いつも他人を思いやる、家族や仲間を。いつも全力投球、音楽も笑いも。いつも笑顔を忘れない、辛いときでも。フリュシャカはこんな子だった。ああでも、彼女の魅力の万分の一も表せてない。これからずっとずっとくり返しくり返し頭に浮かぶだろう。尽きないフリュシャカの思い出を、長い時間かけて語り合おう。そうして彼女の冥福を祈ろう。
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